中東さんは、NHKのジビーフの特集を見て、「これはうちこそが扱うべき牛や」と、思ったという。
そしてルートを探し、現在では出されている。
昨夜もいただいた。
今まで様々な形で、様々な料理人が作ったジビーフを食べてきた。
肉の凛々しさが一層研ぎ澄まされていくような料理、猛々しさが湧き上がってくる料理、エレガントさを引き出した料理。
そして中東さんのジビーフは、どこまでも優しい。
和芥子と辛味大根を添え、吉田牧場のチーズを抱いたジビーフは、舌に優しく入ってくる。
噛むほどに滋味が膨らんでいくのだが、その膨らみ方は緩やかで、気分を穏やかにする。
「よう生きてきたなあ。えらかったなあ」。
中東さんがそんな言葉をかけたような、慈愛に満ちた味がある。
食材の力を生かす。
そう簡単に言い表すが、料理人が、食材に対しての思いをどのように深めているかによって、生かし方は変わってくる。
ジビーフを見つめる中東さんの眼は、慈しみ深く、暖かい。
だからこそ、その思いが味となって、僕らの舌に滴り落ちるのだ。