その店は、上海の一角に人知れずあった。
いや店ではない。普通のマンションの一室である。
名人汪さんは、家庭のごく一般的な台所で逸品を次々と作っていく。
すっぽん、上海蟹、海老、うなぎ、角煮、カモ、鴨舌、マナガツオなど、総数26皿の宴席である。
上海料理の特徴である、醤油と油、砂糖を使った、コクの深い甘辛味の料理が多いが、汪さんの作る料理には、甘辛味のグラデーションがある。
それぞれの食材を活かし、またその食材の滋味が甘辛味と出会って生まれた甘辛味が舌を包んで、陶然とさせる。
作り方を見さしてもらうと、相当な砂糖だなあと思うのだが、口にするとしつこくない。
むしろエレガントである。
川海老は、甘辛味の中で海老の香りを爆発させ、豚の角煮は、果物の甘みと豚の脂が抱き合うトキメキがあり、干豆腐はしみじみとした淡味を舌にのせ、うなぎは、甘辛味と溶け合う皮下コラーゲンの甘みで笑わせる。
汪さんおそるべし。
怒涛の26皿の詳細は別コラムを参照してください