甘鯛は潤っていた。

食べ歩き ,

甘鯛は潤っていた。
人間がその名をつけたことを証すかのように、エレガントな甘みを宿しながら、そっと潤っている。
白い肌を、今まで見せたことない薄桃色に染め、潤っている。
0度で一週間寝かせたことによって、命の雫が膨らんだのだろうか。
カリリと香ばしく焼かれた皮を噛めば、歯は甘鯛の肉に吸い込まれて、うっとりとなる。
豊潤にして繊細なる甘みが、口を満たす。
完全なる美と色気が、張り詰める。
「ああ」。
思えず、歓喜の嗚咽が漏れた。
そこへ、昆布とあさりで淡くとったという出汁を流し込む。
すると甘鯛は、少し安心したのか、隙を見せ、海へと戻っていった。
新潟・燕三条「イル・リポーゾ」の全料理は、別コラムを参照してください