蜂を超えたいんです。

食べ歩き ,

やはりこの人は、愛すべき変態である。
「テーマは、蜂を超えたい。なんです」。
なにを言っているのか、まったくわからない。
聞けば、市販の蜂蜜は、瓶詰めされるまでに、様々な加工がされる。
ならば「蜂蜜が吸っている、本来の花の蜜は、どんな味かするのだろう。蜂はどんな気持ちで味わっているのだろう」。そう思ったという。
そのため、山に分け入り、野生のアカシアの花を、一万本集めて、何時間もかけて蜜だけを集めたのだという。
氷水に入れて保管したという蜂蜜が、銀のスプーンに入れられ、黄金色に輝いている。
目を閉じ、神経を研ぎ澄まして、ひと舐めした。
甘い。
甘いが汚れが一切ない。
蜂蜜の重みが一切なく、唾液にさらりと溶けていく。
花の香りが漂い、その甘美な余韻は長いが、霞のような軽さと品がある。
高潔な甘みが、口を、体を、清めていく。
その後、1ヶ月熟成させたわさびの茎とクリームチーズを合わせた料理に、合わせてみた。
チーズに蜂蜜を、いや正確には花の蜜を塗って口に運ぶ。
さわわわわ。
その瞬間僕は、山奥の清水が湧き出る沢に立っていた。
軽井沢、太田シェフの店にて。