サワラに舌を感じた。
醤油主体の地に和えられた刺身が、横たわっている。
上には、カラシが少し。
繊細なサワラには、この地ではきつすぎないか。
食べる前に、あさはかな思いがよぎる。
一枚つかんで口に運ぶ。
唇をねろりとなでながら、舌の上に乗る。
その瞬間自分の舌と同化した。
ゆっくりと口を動かすと、サワラは舌とまぐわいながら、したたかな甘みを滴り落とす。
「こうして情を交わさなければ、本当の私ははわからないの」
そうサワラはいう。
それは、サワラの力を信じ、強い地をぶつけ、舌と妖艶に絡み合うように幅広く削ぎ切りをした、吉井さんの見識だろう。
だからこそ、サワラはまだ生きているかのように、我々に語りかけ、その色気を膨らませるのだった。
名古屋「吉い」にて。