怒りに身を震わせながら、新大阪を駆け抜けた。
水了軒。
駅弁ファンなら知らぬ人のいない駅弁会社である。
名物八角弁当に始まり、昭和洋食弁当。
汽車弁当や穴子三本勝負。
チャーシューマイ弁当や夏のはも弁当。
大阪弁VS博多弁。
最新の七菜味すしにいたるまで 打線の切れ目がない。
丁寧な味付けと工夫を凝らした惣菜が、 おいしいご飯を恋しくさせる。
食うてくれ、楽しんでくれという、大阪人のホスピタリティーが
弁当箱にぎっしり詰まっていて、食べる人をワクワクさせる。
大阪へ旅する楽しみの一つだ。
ところがいつの日か水了軒は、 ホームから閉め出され、 コンコースからも閉め出された。
唯一買えるのは、改札口(中央入り口)外の小さな店舗だ。
そして現在、売り場のある辺りは工事中で、水了軒ファンは途方にくれる。
買える弁当は、JR東海パッセンジャーサービスだけだ。
いかにも企画会議、重役試食会を経て出来ましたという弁当で、 最大公約数的味気のなさに富んだ弁当である。
そりゃあもうけたいという気持ちはわかる。
ならばなぜ、水了軒を閉め出さず、競い合うという選択をしなかったのか。
なぜ旅客、乗客のサービスを第一に考えなかったのか。
会社名は何のためなのか。
朝食抜きで弁当を楽しみに駅にやってきたが、意地でも買わん。
空腹と怒りを抱えながら考えた。
明治来の駅弁文化のともし火を消そうとする、企業の正義は横暴である。