これは干物という名を借りた、芸術である。
カレイという命に、敬意を捧げた、芸術品である。
干してあるというのに、汁気が豊かで、食べるとふわりと歯が包まれる。
皮と身の間の甘いエキスが、つうっと流れ出て、精神をメロメロにさせる。
うまい魚料理の前では、人間はただただ無力になるということを、教えてくれる。
カレイの余分な水分だけを、そっと太陽の力でぬいてやる。
抜きすぎてもいけない。
抜かなくてもいけない。
その加減を、何十年も作ってきたお母ちゃんは知っている。
優しい目で見つめながら、老練が染み込んだ手で触りながら、カレイの全能を引き出していく。
その術が、この芸術を生み出した。
「ああおいしい」「おいしい」と、何度呟いたことか。
今度は、一滴醤油を垂らしてみた。
すると旨味がぐんと深くなり、久しぶりに会った女性が妙に色っぽくなって現れた時のように、胸が高まって、頬が赤くなった。