こんな山の中で、クエが食えるのかい?
ダジャレを言っている場合ではない。
クエは平戸の名物なのである。
不安を抱きながら山道を走ること30分、店は忽然と現れた。で迎えたご主人はいきなり、「クエ見ます?」
いらっしゃいました水槽に、40キロ近いクエ様が、泰然自若としてこちらを睨んでいる。なにしろあなたは、これで40万円もするのだからね。
刺身は、意外にもあっさりとして、噛んで行くとほのかなうま味が滲み出る。そして鍋は、攻めのコラーゲンである。
グニュ、ふわっ、コリッ。様々な歯ごたえで攻めてくる。
淡味ながら、その脂と筋の部分に、獣のような野生の香りが漂っては消える。
その対比が、コーフンを呼ぶのである。
だからつい箸は、皮の部分や骨周りを狙ってしまう。
抽出されたエキスは出しに溶け、丸くなって舌を包む。そしてその汁を吸った米は雑炊となって、幸せを運んでくる。
「どう美味しかった?」ご主人が笑顔で尋ねる。
「高いからね、俺らは食えないんだよ。お客さんの嬉しい顔見れば、それで十分なんだよ」。
高いって、一人6千円。これなら毎年平戸に来てしまう。
「親父さん今度来るときは目玉もね」。「はいよ」。
長崎美食怒涛の報告シリーズvol4