冬になると味噌ラーメンが無性に恋しくなる。しかし味噌ラーメンは、東京では不利なのだ。元来、寒く、空気が乾燥した札幌が生んだおいしさであり、湿気が多く、暑い東京には向いていない。さらに最近の塩分油分旨味過多からの脱皮傾向もあって、ラーメンブームの中にあっても味噌ラーメンを看板に掲げる店は少ないのが現状である。しかし一方で、一部熱心な店主たちにより、東京ならではの深化を遂げているのだ。その一端を痛感させるのが、「一福」の味噌ラーメンである。
最寄駅から離れた住宅街の一角、こんな場所にお客さんは来るのかしらんと心配してしまうようなひなびた場所に、「一福」はぽつねんと佇んでいる。厨房に立ち、一人切り盛るのは、物静かな女主人。彼女の立ち振る舞いと同様に、「一福」のラーメンの魅力は、優しさにある。運ばれてくると、微笑んでしまうような甘い香りがふわりと立って、たまらず一口すすれば、味噌味も旨味も突出しない丸い味わいが、舌を包み込む。背脂が乳化してコクを深め、その味わいは食べ進むにしたがって深く、濃密になっていく。浮かべたクルトンのアイデアもお見事。濃密で温かみを感じさせる味噌のポタージュだ。一週間熟成させたという中太縮れ麺のコシは、信州麦味噌を使ったスープを力強く受け止め、一気に食べさせてしまう。旨味はしっかりしていながら、味わいが優しいので、食べ終わると気持ちが安らかになる。そんな味噌ラーメンである。
味噌ラーメン 650円
「一福」