香辛鶏伽哩

食べ歩き ,

「また店ができたのか」。一年前にできたその店を、僕は冷ややかな目で見ていた。なぜなら、不便なその場所は、何度も店ができては消えていったからだ。ところが次第に満席になっていくではないか。そこでようやく偏見と重い腰を捨てて店を訪れることにした。

清潔感あふれる店のカウンターに座ると、目の前には、カルダモン、クミン、クローブ、粗塩などが入ったビンがずらりと並んでいる。そして店内を包むは刺激的な香り。俄然気持ちが前のめりになって、チキンカレーを頼めば、黄河黒米を一割入れて炊き込んだ小豆色のご飯に、黒に近いこげ茶のソースがかけられ、鶏肉の一塊がごろんところがった皿が運ばれた。余計な要素はそぎ落とした、実に意欲的なカレーの姿である。さらさらのカレーソースをご飯に絡めて口に運べば、まず強烈なクローブの甘苦い香りが飛び込んできて魅了する。続いて酸味とほろ苦味、複雑な香りと柔らかな甘みが顔をのぞかせる。そして最後に辛味が暴れだす。だが、どのの要素も突出することなく、一丸となって五感を揺さぶるのである。もっちりとした食感で一粒一粒の自立感がある黒米入りご飯も、スープ状ソースをさらりと受け止め、相性が良い。考案が見事に着地して、浮き立つことなく馴染んでいる。カレーだけではなく、前菜の豚肉のコンフィ(\500)やデザート類も秀逸であるから、様々な楽しみ方ができる店でもある。

自らの偏見を猛省した、家から一分の美味であった。

 

「香辛鶏伽哩」\900

「伽哩人」中野区野方1-5-17  3387-0598 11:30~14 17~22

閉店