<油道5>丸腸味噌だれ焼き

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鉄板の上で、丸腸が踊っている。

身をよじり、小刻みに震えながら、リズムを刻んでいる。

時折テコで抑えられると、「キュー」と声を上げる。

それは、食べられる喜びに震えているようだ、と思った。

 

ここは赤坂、広島風お好み焼き屋の「きんさい屋」。

麺がなんともうまい焼きそばやお好み焼き、とんぺい焼きなどが主流だが、鉄板焼きも、数多く揃えている。

その中の一つ、「丸腸味噌だれ焼き」を、ぜひとも油料理ラバーにお奨めしたいのだ。

丸腸とは、ご存じ牛の小腸で、通常では筒状の真ん中を開き、コプチャンとかコテツ、ヒモなどと呼ぶ。

一方、開かず、ツルンとした内側を裏返して外にし、外側の脂を包み込んで筒状に処理したものを、丸腸という。

この内側となった外壁には、みっしりと脂がついているのだ。

同じ内臓でも、大腸162kcal、直腸115 kcal、ミノ182 kcal(百gあたり)に対し、287 kcal。

しかも開かないので、脂が溶け出さず、しっかりと内部留保されるというワケだ。

さて、踊る丸腸に、おいしそうな焦げ目がついたところで、味噌だれを投入。

赤みそと白味噌、醤油、酒、みりん、砂糖などで練り上げられたタレを、からめれば、ジュジュッと威勢のいい音ともに湯気合が立ち上り、丸腸は観念する。

照りがいい。甘い匂いがいい。

コロンとした固まりを一ツ、箸でつまんで口に運ぶ。

味噌だれの甘辛味がまず広がり、続いて丸腸を噛みこむと、ふにゃりと舌の上で崩れていく。そして甘い脂が、一気に広がるのだ。

このふにゃりというか、クニュというか、たよりがいのない食感と、熱を通して強まった脂の甘みがいい。

なにかこう、人間の嗜好を堕落させるような危うさがあって、誰もが素直に「うまいなあ」と呟やいてしまう。

しかも味噌だれという追い打ちもあって、やめられなくなる。

お相手には、ビールやサワーや日本酒よりも、芋焼酎。中でも香り高く、後引く甘みを持つ、赤霧島がいい。

丸腸味噌だれを食べ、すかさず赤霧島を飲む。

すると口腔いっぱいに広がる脂感が、その余韻だけを残してさらりと消え、また一つ丸腸へと箸が伸びる。

ほかの人にとられたくなくなるので、銘々人数分頼む方が賢明だ。

まあこうして、ふだんは肴にするのだが、おかずとしても活躍できるのではないかと思う。

七味をかけ、添えられたキャベツの千切り共にとご飯に乗せ、掻き込む。

スイマセン。丸腸おかわり。