〜健やかなる牛と豚が与えしもの〜

食べ歩き ,

「この肉を使うようになってから、ミルポワ(香味野菜)もトマトホールも、赤ワインも、ぐっと減りました」。
そう言って坂本シェフは、優しい笑顔を浮かべた。
料理人として、永らくボロネーゼを作ってきた料理人として、心底嬉しかったのだろう。
笑顔が、誇らしげに輝いていた。
愛農ナチュラルポークとジビーフを使った、ボロネーゼである。
肉自体の旨味と香りが太いので、野菜やトマトの力を借りる必要がない。
食べれば、心を奮い立たせるほどたくましく、体が弛緩するほど優しい。
たくましさは、まさにジビーフであり、優しさは、愛農ナチュラルポークからの恵みである。
両者の滋味が丸く抱き合って、舌に落ちる。
妖艶なトリュフでさえ、その出会いに喜んでいるかのように、控えに回って讃えている。
一口食べてはため息をつき、二口食べては笑顔を作る。
牛と豚は、ひき肉となり、小さな小さな塊となっているが、その一つ一つが生きていると、叫んでいる。
人間の根源的な欲を鼓舞する力がある。
もし人生の最後に食べるパスタがあるとしたら、目の前にあるこの料理しかない。
上田太一郎(うえと)×坂本健(チェンチ)×新保吉伸(サカエヤ)×吉田原野(吉田牧場)、一夜限りのコラボディナーにて。
そのめくるめく全貌は、別コラムを