一キロの肉を一人で食べた。

食べ歩き ,

一キロの肉を一人で食べた。
その時何を感じるかを確かめるために。
場所は、麻布十番の「ワカヌイ」である。
「赤ワインソースですか、醤油ガーリックソースですか」と聞かれ、同じ味で貫くのはつらいし、赤ワインソースはなおさらつらいと思い、。
「塩と胡椒で。醤油ガーリックソースは別添えで。ワサビとマスタードも添えて。塩と胡椒もちょうだい」。
焼くのに4~50分かかるという。
ビールもなくなった。
wifiも飛んでいない。
ただひたすら肉への想いを高めるだけである。
こうして高めきったところへ、そいつは運ばれた。
塊という言葉は、この肉のためにある。
全長約29センチ、厚さ5センチ(測ってみました)
どこから食べていいのかさえわからない。
とりあえず左下の脂身を切り落とし、その辺りから攻めることにした。
まずはそのままで。
次に塩と胡椒をかけて。
次にマスタードつけて。
さすがニュージーランド産である。咀嚼に50回は要する。
よく噛む。よく食む。
噛むごとに、肉のジュースが溢れ出す。
この辺りで水ではきつくなり、赤ワインを頼む。
次にワサビをつけて。
まだ3合目。
次に醤油ソースをちょいとかけて。
その途端ご飯が恋しくなったが、錯覚だ。と思わせて突進する。
もう手は出し尽くした。
脂身を細かく刻んで赤身肉に乗せて食べてみる。
はは。6合目通過。
「いかがですか」と、女主人登場。
「私も、久しぶりに1㌔頼む方に会いました」。
はは。あまりいなかったのね。
おじさんは大丈夫、さっき満腹中枢を切断したからね。
7合目から、少し焦げが小憎くたらしくなってきた。
でも骨の周りがコラーゲンに富んでまたうまい。
ああこれを知っていたら、まずここを切って合間に食べたのになあ。
骨の周りのカリリと焼かれたところもうまい。
そう、このように、子細に観察しながら食べ進むことが肝要である。
そして誰もいなくなった。
骨だけとなった。
女主人が来て「さすが」。と呟く。
「さすが」といわれてもねえ。
費やした時間は35分。
満腹すぎて血糖値が上がり、目の前がくらんできた。
ワインのせいではない。
現実が遠ざかる。
自分が人間ではなく、牛になった気がした。