牛タンを食べると、いつもドキドキする。
だってそうじゃないですか。いくら相手が牛とはいえ、舌と舌をからませるんですよ。
色艶もエッチだ。ピンクに染まった、しなやかな肢体。縦にカットしても、一枚一枚が舌として見えてしまう、お姿。 牛タンは味の前に、官能に訴えようとしていて、とてもずるい。
料理の東横綱は、タンシチュー。圧巻は、上野の「ぽん多」かな。
長さ約十五㎝、厚さ約三㎝の、堂々たる体躯で鎮座する。口に運ぶと、舌に吸い付くようで、甘い滋味を滲ませながら、ソースと共に溶けていく。
西の横綱は、タン塩だ。ネギ塩というのもあるが、「ネギを上にして、片面だけ焼いて包んで」と言われるので、困惑する人が続出しているという。
それでは片面が焼けないでしょ。ネギをいったん取り除き、両面焼いてから乗せるのが正しい。
また、多くの人は、タンの焼きが甘い。いいタンは、表面をバリッと焼いて、余分な脂を落としてこそ、うまみが生きる。
「やまし田」は、その辺りをきっちりとわきまえている。
香ばしく、やや焦げ目がつくよう焼かれたタンは、きりっと甘く、舌に甘えない。噛むことが、嬉しくなるタンである。
甘い香り漂う、「ゆでたん」の優しきこと。燻製タンの、叫びだしたくなる凝縮した味わい。
分厚いタンがゴロゴロと入った、どて煮450円の心意気。ほろりと崩れゆく、タンシチュー。
全ての料理に的確な仕事が施され、深々とうなずき、笑いが止まらない。
50歳で初めて包丁を握り、仙台の高校時代にお世話になった「田作」への思い込めた20年。
通うごとに愛着が深まるのは、味の芯に、タンへの愛が、染みているからにほかならない。