少年のような人だった。

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少年のような人だった。
少年の好奇心と、純真な目つきで食材と戯れる。
料理人としての挟持やエゴ、食材の化学的理論や常識を飛び越えて、食材と遊び、料理を生み出すことが楽しくてしょうがないという気分が、すべての料理に漂っている。
だから、どうだすごいだろう。こんなことを思いついたぜ、といったような訴求は微塵も感じられない。
意識が、皿の中だけに向いているのである。
例えばオマールは、その甘味と果物の甘みと共鳴させて、エレガントな料理に仕立てることが多いが、彼はジュニパーの葉(ネズの木の葉)と合わせた。
テーブルに運ばれるのは、もくもくと煙を上げるジュニパーの葉と枝である。
オマールはどこにも見当たらない。
枝を取り除いていくと、オマールのむき身が現れる。
皿に取り、フォークで切ろうと思えば、ナイフとフォークが見当たらない。
聞けば、手で食べろという。
指でオマールをむしり取り、口に運ぶ。
檜に似た爽やかな香りをまとったオマールは、半生よりやや火が入った状態でミシリと歯が入っていく。
オマールの甘い香りとジュニパーの香りが抱き合う。
両者は、森でも海ではない世界に旅立って、未知なるうま味を舌に滴らせる。
貴婦人の気品を持つオマールが、野蛮の片鱗をかいま見せたような。
森の汚れなき清澄な空気を漂わすジュニパーに、エロスが宿ったような。
そんな不思議が体を通過して、僕は目眩を覚えながら指先についたオマールの汁を、そっと舐めた。
今回のミシュランにて二つ星に昇格した「La Grenouiellere」 Alwxandre Gautherシェフのスペシャリテ。

全20皿の解説はまた後日