焦がす寸前まで焼き上げたパート・フイユテが、凛々しい香りを放ち、食欲をくすぐりながら崩れていく。
その一枚一枚は、花弁のように薄くはかないが、香りを、ほろ苦みを、食感を囁きながら、舞っていく。
そこへパート・フイユテのたくましさと共鳴させた、クレームパティシェールの重さが広がり、苺のみずみずしさと、淡雪のように消えるクレームシャンティの軽さが、対比を見せる。
美しく均衡が取れ、曖昧な点が微塵もなく構成されながらも、一つ一つが歌っている。
ミルフィーユは、弦楽四重奏を奏でながら、口の中で響きあう。
焼き菓子という、当たり前でありながら、他にはない存在が、胸を焦す。
「ア・コテ」のミルフィーユ。