生チョコレートは三種類。
フルーティーな香りと心地よい苦みのある「ガーナ スローロースト」。
香り高く、タバコやナッツ類などの複雑な香りを含み、コクのある酸味があって少し野性的な、「キューバ リミテッドエディション」。
キャラメルやバナナのような甘いアロマがあって、赤い果実や黄色い果実のような酸味にミルクとバニラの優し味わいが溶け込んだ、「エクアドル アンド ガーナ ミルクチョコレート」である。
カフェでいただくなら、これに赤ワインを合わせてみたらいかがだろう。ガーナのスパイシーな香りと赤ワインのタンニン、キューバの酸味と赤ワインの酸が出会い、新たな喜びが口の中で膨らむ。
中でも素晴らしいのは、エクアドルとの出会いで、ショコラを口に入れ、3~4回噛んだところで、赤ワインを流し込む。
するとどうだろう。ショコラはエレガントさを増して、妖艶な顔を見せる。これぞ胸をときめかすマリアージュである。
生チョコの次は、パフェはいかがだろう。
こちらも日本喫茶店文化が生んだパフェへの、ピエール・マルコリーニからの回答である。
バニラアイスクリームとチョコレートアイスクリームの上に、オリジナルクーベルチュールで仕上げたチョコレートクリームとソースをトッピングしバナナを加えたパフェで、季節によってアイスは、栗や苺、レモンなどに差し換えられる。
ふわりと空気を含んだチョコクリームを食べてから、冷たくしっとりとしたチョコアイスを食べる。上に刺さったチョコを齧り、クリームを食べる。あるいはチョコクリームと生クリームを混ぜて食べてみる。
食感や味わいの違いが口の中で弾け、顔がだらしなく崩れていく。
スプーンをそこまで突っ込んで食べてみれば、様々な味わいが渾然一体として、舌に丸く優しく広がり、うっとりとなる。
二人でそんな楽しみを分け合えば、距離が、ぐっと近くなるに違いない。
さらにお奨めが、ホットチョコレートである。
原料のクーベルチュールの個性を最もわかりやすく表すので、この店では月変わりで、産地違いを用意している。
ホットチョコレートには、カップの取っ手ではなく、両手でもって飲みたい味わいがある。
ゆっくりと飲めば、甘い香りに包まれて、熱々のショコラが流れ込む。
都会の速度としがらみの垢にまみれて、心が疲弊しているときは、この液体しかない。
厳しい外気に肌を刺され、活力が凍りそうになった時も、この液体しかない。
熱く甘く、濃密な液体が、舌を緩やかに流れて、包み込む。その瞬間に心が座り、体の奥底に火が灯る。時間の流れが遅くなり、幸せが満ちていく。
さらにはホットチョコレートを口に含みながら生チョコを齧り、マリアージュしてみた。
笑いが止まらない。
崩れた顔が元に戻せない。幸せのメーターは、振り切ったまま、戻らなくなった。