「海老フリャー」と記された一皿は、伊勢海老のフライだった。
焦げ茶の衣は、活きた甘えびを焼いて砕き、1週間干したものである。
手前は、伊勢エビの味噌だけで作ったソース、右奥の器には伊勢エビのコンソメが注がれている。
中心部を生のまま上げられた伊勢エビは、海老の香りが凝縮した衣の中から、品のある甘みをじっとりと舌に落とす。
もうそれだけで、体の力が抜けていく代物なのに味噌ソースやコンソメと食べたらどうだろう。
海老味噌のソースは、一切雑味なく、うま味と香りでフリャーになじむ。
そしてスープは、磨きに磨いたビスクのような透明度の高い味わいで、飲む度に充足の息だけが漏れていく。
食べながらあまりのうまさに、ダレもしゃべろうとしない。
味噌ソースをフリャーにつけて一齧りした後にすぐコンソメを飲んで口の中で合わせると、自ら海老となって海底を泰然とたゆたう気分となる。
これだけ海老の味を重ねても嫌みにならないどころか、伊勢エビの真意に迫ることが出来るのは、どれもが極めて高い水準で純度を高めているからだろう。
名古屋「トゥ・ラ・ジョア」の一皿。