野鳥の中では一番美味しいと思います。ぜひ冬に食べに来てください」。
新潟「UOZEN」の井上和洋シェフは、熱く熱く語られた。
そう聞いては、行かずにはいられない。
その鳥、ヤマドリは、「むかごをたくさん食べているので、さばくといっぱい出てきます。そういう鳥は脂ものっておいしんです」という。
一つ目の皿は、ヤマドリの白湯スープに、焼いたヤマドリと内臓類などを使ったつくね、自然薯、ユリ根を盛り合わせた料理だった。
スープを一口飲む。
その瞬間に、「ああ」といって、体が弛緩した。
豊かな旨味のスープが喉に落ちるとき、微かに肉ではない匂いがする。
芋のような甘い香りと、青草の香りが、遠く香る。
そこがどうにも、心に引っかかって、恋しくなるのである。
そしてほのかに、菊芋のような優しい甘みがある。
つまり、野鳥の滋味を煮出した白湯なのに、エレガントなのである。
これはいけません。
二皿目は、ヤマドリの薪火焼きである。
焼かれた胸とモモに、ヤマドリのジュで作ったソースが敷かれ、マタタビとミズのピクルスが添えられる。
胸を齧った。
「うう」。また言葉にならない呻きを発してのけぞった。
キジに似ている。
キジに似て、一口目は淡い味わいのように感じさせながら、噛むほどに深い旨味が眠っていることに気づかせる。
やはり芋のような甘みがあり、肝のような味わいも潜んでいる。
淡さと濃さ、優しい甘みと凛々しい味わいという、一つの肉の中に二律背反が潜んでいて、人間の舌を翻弄する。
それでいて優美さがいつもある。
深窓の令嬢に備わっていた強靭や仮借なき個性を知ってしまったかのように、身じろぎできない、勢いがある。
それがヤマドリという鳥の、命の発露なのか。
僕は二皿を、終始唸りながら食べ終え、圧倒的な余韻をじっくりとワインで楽しみながら、甘美な夜を作り出したシェフに、実り多き新潟の山々に感謝した。