ナイフを入れた瞬間、透明な肉の脂があふれ出て、デミグラスソースに入り混じる。
脂も肉汁も逃すものかと、あわてて口に運べば、歯は香ばしい衣にサクリと入って、舌とほほの内側にじわりと肉の甘みが広がっていく。
噛むほどに滲み出る肉のジュース。
食べるほどにせりあがる、食欲。
顔はだらしなく崩れ、「ああ、メンチカツはうまいなあ」と、何度呟いたことか。
この料理を発明した人に、何度感謝をしたことか。
次にデミグラスをたっぷりからませて、
次に塩とマスタードで、
次に特製ウースターで、
この辺りで、急激にご飯が恋しくなり、頼む。
そしてメンチカツもおかわりし、都合4個というメンチカツ史上最高数を食べた
ぞと、
誇らしげにフォークを置いたが、
女性で5個、男性で6個も食べた人がいた。
昨夜だけで恐らく百数十個が揚げられたであろう。
「同場所同時間帯で一番メンチカツが食べられた夜」
世界で一つの、誇るべき夜だった。