昨夜、柳橋を歩いていて、ふとショーウィンドーに目が止まった。
レストラン「KURETAKE」。洋食屋である。
「新潟産米を使用しています」という立札の横に、そいつはいた。
「冷たぬき700円」。
しかしそのサンプルはコーヒーである。
日本国史上、これが冷たぬきと呼ばれた史実はない。
そんな郷土食があったことも報告されてはいない。
なぜコーヒー豆なのか。
しかも、ポークソテー、ハンバーグ、オムライスという正統洋食の中に、異端児である。
ミックスサンドの横に、唐突にいる。
よし今日は洋食だ。カロリー多いけどガッツリいくもんねと思って店に入った人が、急に冷たぬきは食べない。。
そんな人種が柳橋には多いのか。
しかも780円と、ちょっと高い。
そこで今さっき鮨を食べたばかりだというのに、どうしても確かめずにはいられなくなった。
実はもう一つ気になった品があったのである。
上段右から二つ目、チキンライスである。
もう寿司を食べたことは忘れた。
すし屋の親父よ、ごめんなさい。
店に入り、一つの疑問が氷解した。
洋食屋は、表通りを右折して二軒目のビルにある。
その表通りには、「長寿庵」なるそば屋があった。
「長寿庵」と「RESTRAN KURETAKE」。二つの店は、中でつながっていたのである。
鉤の字型の建物で、そば屋と洋食屋を兼業していた。
厨房も同じ、店員も同じ。
「冷たぬき」の解も溶けたが、ここは聞いておかねばならない。
「あの~、冷たぬきのサンプルが珈琲になっていましたよ」。
「表の方にですね。サンプルはあるんです」と女性店員が答える。
答えにはなっていなかったが、よしとしよう。
ではもう一件の解明にかかろう。いいかねワトソン君。
「チキンライス下さい」。
洋食屋にある「冷たぬきのナゾ」は、解けた。
寿司を食べたばかりの(しつこい)タベアルキストは、次なる解明にかかった。
「はい。チキンライスおまたせいたしました」。
おおっ。すばらしい。これがチキンライスか。
チキンライスでもドリアでもない、チキンライス。
ホワイトソースとパン粉をかけて焼き上げた、チキンライス。
Riz au poulet à la sauce béchamel gratinée と申しましょうか、そんな料理なのである。
困ったことに、うまみの重層にスプーンが止まらない。
さっき食ったばかりなのに、スプーンが止まらない。
味や調味にさして工夫があるわけではないのに、スプーンが止まらない。
鶏肉も少なく、870円は高いと思うが、スプーンが止まらない。
アルマイトの皿が、また泣かせるじゃありませんか。
ということで全部いただきました。
一件落着。
「気をつけよう、食後に見るな、ショーウィンドー」。
お粗末さまでした。