僕の好きな本①
「安閑園の食卓」1986年刊。後に日本に移住しNHKの「きょうの料理」で活躍された、台湾台南出身の料理研究家 辛永清さんの幼少時代のお話。
使用人が何人もいた裕福な家で生まれ育った辛さんの、古き良き台湾の生活が描かれている。恐らく1945〜57年頃の話だと思われる。
何より出てくる料理の数々がたまらない。蓋を取るとふわっと暖かないい匂いがする豆花、鍋の下に大量の塩を敷き詰め丸鶏をワラ火で蒸し、鶏から垂れた脂が塩と混じって立ち上る蒸気が鶏を美味しくさせるという姜味烤鶏。ガツから出汁をとったスープで作る豚血のスープの猪血菜糸湯。生きたうなぎと朝鮮人参によるスープ、つぶしたばかりのコブクロ料理、子豚の丸焼き、親戚だった王家の叔母が作ってくれた紅焼肉。生湯葉を何枚も重ねて作る精進料理。
それぞれの料理を辛さんは仔細にわたる観察眼で、描きだす。そこにはたゆまない作る人への愛があって、ほのぼのとさせられる。読んでいるだけで、その料理をその環境の中で、人々と笑いながら食べた気になる。
この本が大好きなのは、その幸せ感が素直に伝わってくるかもしれない。
時代は、日本統治時代や国民党の侵略など変遷して、決して楽しいだけでは済まない時代へと徐々に移り変わるなかで辛さん一家は揉まれていく。
しかし辛さんはいう。日常の、どんな些細なこと、物、人の中にも、宝物はある。そしていつの時代にも、注意深く見つめてさえいれば、その宝は誰にでも見つけることができるはずであると。
僕の好きな本①
日記 ,