客の愛着が染み込んだ木のテーブルや椅子に床。使い古されたものだけが放つ、銀器の輝き。気さくだがスマートなカメリエーレ。美人のディレットリーチェ。
寡黙な年配のシェフ、カポクオーコ。洋服や表情、髪形などすべてから上流階級の品を漂わせる客たち。これでもかと、堂々たる量でサーブされる主菜。
ミラノである。これぞ正統なるミラノの夜である。

「ファラオーナのカルピオーネ」は、人参と玉葱によるソースがなんとも優しく、淡い味の中にたくましさを秘めたほろほろ鳥を、穏やかに包み込む。

「プンタレッラ」のサラダは、日本のそれより歯切れよく、軽やかさの中に強い香りを秘め、アンチョビのソースは塩気をビシッと効かせて、食欲を刺激する。

そして焼きリゾット「リゾット・サルト」は、トマトとチーズの味の押さえ方が程よく、焼けた固さが、全部に均一となっている点に、素晴らしさを見た。
カルチョッフィのタリアッテレは、カルチョッフィのほのかな甘みを尊重した味付けがいい。

そして王道オーソブッコは、これが一人前というんだよという大皿で、どしんと出される。
仔牛ならではの穏やかなコラーゲンがソースに溶け込んで、量が多くともその優しさにほだされる。

その横にたっぷりと、これでもかと盛られたミラノ風リゾットは、チーズのコクが後を引き、もう食べられないよネといいつつ、ついついスプーンですくってしまう、悪い子を続出させる。
ミラノ風トリッパの煮込みは、てれんと煮込まれたトリッパが舌を滑らかに過ぎ行く頃合いに、香草の爽やかさが鼻に抜けていく。

さらに、ミラノ風カツレツである。
もうこの大きさには驚かないぞと頼んだものの、やはりその威風堂々たるお姿は、食欲煽る。
何よりも衣の香ばしさがたまらなく、東京とんかつ会議的には、衣も油も満点である。
そんな香ばしき衣に包まれた、仔牛のつたない旨みがいじらしい。
もちろんこの後も、ドルチェをたっぷりといきましたよ。
注文の手違いで、肝心のカッスーラを食べられなかったのが返す返すも残念だが、また来ればいいさ。
Milan「Antica_Trattoria_della_Pesa」にて

料理の全写真と名前は、もう一つで