30になったばかりなのに

食べ歩き ,

「30になったばかりなのに、銀行がお金を貸してくれたんです」。
調理師学校で仲良しだった二人の女子は、別の店で働きながら、いつか一緒に店を始めることを夢見ていた。
まだどこか、あどけなさが残る若き二人に融資した銀行家は、食いしん坊だったのかしら。
やがて店を開いた二人は、以前旅先で出会ったカクテルをメニューに載せる。
ヴェネチアから景色がきれいだと進められて足を伸ばした南チロル地方のポルツァーノという町で、不思議な光景に出会ったのだ。
どの店でも、みんな同じ飲み物を飲んでいる。
大きなタンブラーに、氷とミント、炭酸が入っているのはわかったが、イタリア版モヒート。
はは。そういうと南チロルの人に怒ほかは何が入っているのか?
鼻歌まじりで作っている親父に聞けば、“フーゴ”と答えた。
早速飲んだ。気に入った。もう一杯飲んだ。ますます気に入った。
ミントをつぶし、サンブーカを入れ、そこにスプマンテと炭酸水を入れ混ぜる。
られるか。

この店でフーゴを飲む。
ミントの爽快が鼻に抜け、スプマンテが喉をチリチリとくすぐっては、降りていく。
後味に広がる、サンブーカの甘苦みに引かれてもう一杯。
「こりゃあいい」。夏の夜を退散させるには最適さと、もう一杯。
フーゴの魅力に、ほろ酔いが増してくる。

ミント好きな彼女たちは、カウンターだけの小さき店を、「バールメンタ」と名付けた。
その店名には、店を訪れたお客さんが、ミントの爽やかさのように、都会の汗と世の憂さを晴らしてくれますようにとの、願いが込められているのかもしれない