<駅弁勝負> 第68番  

駅弁 ,

駅弁勝負第60回

負けた。今回は完璧に負けた。
京都から東京へと向かう新幹線車中である。
京都駅で駅弁を買う。

“駅弁勝負師”としては、食べたい駅弁を買うわけではない。

1)今までその駅では購入していない駅弁
2) 地域の弁当会社製か、地域の特色が出ている駅弁
3)勝負に勝てると推測できる駅弁。
この3点に留意して駅弁を購入する。

今回買ったのは、なかがわの「京精進弁当」980円である。
麩などのグルテン入りだが、動物性脂肪は一切ない弁当であった。
長らく、楽勝を続けていた油断があったのかもしれないが、この弁当はいまひとつであった。
揚げ豆腐は風味がなく、ほうれん草白和えは歯ざわりを強調し、湯葉巻きは、出汁で炊く時間を省略したようだ。
心に寂寥たる風が吹いている時、近くに座られたのは、4人組だった。

50代初めの着物姿の女性は、明らかに芸妓さんである。
隣に座った70代の旦那は、終始目尻を下げ、鼻の下を伸ばし、嬉しそうに喋っていた。
そして60代後半と70代のお姉さんが二人寄り添っている。
「今度東京でうまいもんでも食おか」という旅行だろうか。

旦那は、豪華幕内に日本酒、60代のお姉さんは弁当なし。問題は芸妓さんと70代のお姉さんである。
二人とも焼肉重であった。
タレの染みたご飯の上に、大きな肉が3枚も乗っている。
朝から肉ですか。焼肉ですか。
二人は器用に肉を箸でちぎって食べ始めた。
焼肉重なのに、食べ方が雅で、ガツガツ感が一切ない。
淡々と、踊りの名人のように、食べ方に淀みがない。
しかもそんな美しい食べ方なのに、70代のお姉さんは、芸妓さんより5分も早く食べ終えたのである。
瞬く間の焼肉ご飯のお食べであった。

俺は何をやっているんだ。
近くで精進弁当を、ちまちまと野菜を食べていた私は、さらに冷たく寂しい風に、叩きつけられたのであった。