隣の窓口の声が聞こえてきた。
「え? ここは案内所じゃないの?」
見れば二人のおばあさん。チューリップ帽に小さなリュックと、旅支度姿である。
「ここは緑の窓口です」。
係員、素っ気無い。
「窓口だったら分かるんじゃない」。
「いいえ、案内所じゃないんで」。
「あらそう。案内所はどこですか」。
「案内所はないですが、すぐそこの交番で聞かれたらどうでしょう」。
「交番。だってわたしら電車で行くんだもの。ねえ、きよさん」。
「そう、深大寺植物園に行くの」。
「電車。切符は? ない? 買いますか? 買う? ではここでいいですよ。どちらまで」。
「深大寺植物園」。
「駅はどこですか」。
「わかんないのよ」。
「わからないって。それじゃ売れないんですけど」。
「だから行き方聞こうと思ってんのよ」。
「ここじゃ無理です」。
「あらそう。じやあ交番に行きましょ、きよさん」
「そうね」。
ちょっと途方に暮れ気味、スタスタ。
追いかけようと思ったが、こちらは絶賛処理中。
あのお二人、どこで待ち合わせてここに来たのだろう。
なぜ深大寺植物園に行こうと思ったのか。
今回が初めてなのか。
とりあえず駅に行けば何とかなる。
正しい。
出たらもういなかった。
着けたかなあ。
立川志の輔の傑作創作落語「緑の窓口」を思い出した。