能登杜氏四天王と

食べ歩き ,

能登杜氏四天王と呼ばれた、故波瀬正吉さんが10年前に造った古酒である。
飲めば、するりと舌をすり抜けていく。
能登杜氏特有の濃さはなく、古酒を感じさせない淡くきれな飲み口で、朝露の気配さえある。
しかし。 喉元に落ちかかる刹那、ふわりと甘い香りが立ち上る。
バニラ香に似た、切なく、じらすような甘い香りが鼻に抜けていく。
それがこの酒に込めた、波瀬さんの魂なのだ。
魂は心を弛緩させ、現世界の速度を緩め、我々を解放する。
そして酔いの悦楽へと引きずり込んでいく。
「燗をしてみませんか」。貴重な酒を持ち込んだ方が提案された。
52度まであげてやった。
するとバニラは少し後退しながら、芯の太いうま味が顔を出し、我々を鼓舞しようとする。
凄まじい酒である。
フランスに比較しては恐縮だが、まさしく日本