そのトムヤムクンは、純真だった。
味の濁りが一切ない。
辛味はもちろん、ある。
だが辛味も分をわきまえて、野蛮ではない。
日本のすまし汁と共通する、透明感と繊細がある。
器にとって、「辛いぞ辛いぞ」と、恐る恐る飲めば、さらりと舌を過ぎていった。
余分な甘みも、うまみもなく。汚れなき滋味だけが、舌に、細胞に染み渡っていく。
こんなトムヤムクンは、初めてである。
おばちゃんが作るところを見ていると、ナンプラーもマナオをドボドボ入れていた。
エビ、ハーブ類、ナンプラーの質の高さか。
おばちゃんの熟練による感性なのか、心の素直さなのか。
一説によればアユタヤ王朝期に、フランス使節団をもてなすために考え出されたという。
そんな話を裏付ける気品と洗練が、心を潤わせた。
タイ、アユタヤ、「Ruen Janung Ayutay」にて
