極めておいしいものとは、どうして妖しい味がするのだろう。
「パッソアパッソ」で出されたアニョロッティは、ただのアニョロッティ、セージクリームではない。
中に富士で捕獲された、ツキノワグマの挽肉が詰められているのである。
クリームソースの優しいうまみを感じながら、皮を突き破ると、肉の餡に歯がふれる。
二回三回と噛むうちに滋味の底から、凛々しい野生の香りが立ち上ってくる。
なにかこう、俺はまだ死んでいないぜという猛々しい匂いなのである。
危険である。
体に眠っていた野蛮を叩き起こすたくましさと、真の自然だけがもつ神秘を感じさせる品があって、笑いながら、精神が上気していく。
コーフンさせておきながら、セージの明晰な香りが気を静めるので、再びその魔力を食べたい気持ちがつのって、、それが、噛むごとに膨らんでいく。
体に強い気を送られて、鼻腔が膨らんだかと思えば弛緩させられる。
自然は怖い。
そして妖しく、極めておいしい。