森の精気がここにある

日記 ,

「東京に来られることはないんですか?」と聞いてみた。
「以前は、コラボやイベントなどで東京に行くこともありました。でも今はお断りさせていただいています。東京の料理を食べてしまうと、潜在的に真似しようとか、超えてやるという意識が出てしまうことがあるんです。だからやめました。今は、もっともっと自分の足元を見つめて、地元の食材と向き合うことが必要だと考えています」。
軽井沢「E.Bu.Ri.Ko」の内堀シェフは、優しい眼差しを投げかけながら、静かに語られた。
アカヤマドリ茸、モリーユ、アスパラ、のびる、ハタケシメジ、コシアブラ、サクラマス、ホロホロ鳥、菊芋、トリアシショウマ、シオベ、ヒラタケ、バイリング、アマドコロ、豚肉、フキノトウ、白樺樹液、サルシナ、香茸、白木耳、筍。
地元で採れた、山菜や茸、野菜、肉や魚が、我々の体にやどっていく。
ここは、山の空気とつながる店である。
森の精気がここにある。
食べるごとに、森で生まれ育ち、平原へと侵出していった人類の記憶を呼び戻す。
シェフの先の言葉を聞きながら、先日の料理学会で美瑛伊料理塾の斎藤壽さんがおっしゃった言葉を、思い出した。
「いまは地方の時代になりつつある。でも地方の料理人は、地方の時代だと思ってはダメ。地方にいるから発信できるのではなく、自分の中に何を持っているのか、自身に問いかけながら日々邁進しないとモードにとらわれてしまう。
さらに最近は、若い料理人の発言の場が増えている。世の中のモードが自分たちに向いている時だからこそ、一層足元を固めなければならない」。
真のローカルガストロノミーが根付き、ポストコロニアルの哲学が膨らむ時代は来つつある。