松葉杖の未来が、あった。
松葉杖というと、大抵は、脇の下に杖の端を当てグリップする、あの形を想像する。
しかしその松葉杖は、まったく違った。
フォルムも素材も、まったく違う。
先日、デンマークから松葉杖を輸入されている、尚工藝 / 宮田 さんとお会いして、様々な杖のお話を伺った。
我々の知っているあの松葉杖の形は、欧州では、戦後に廃止されたという。
なぜなら脇を圧迫し続けるというのは、人体にとって実によろしくないからである。
また、それだけでない様々な理由があった。
宮田産が扱うvilhelm Hertzの松葉杖を使ってみると、それが体の一部になってしまう。
杖という概念を離れて、脚となる。
人間に近い、ヒューマンスケールな道具なのである。
300キロの負荷に耐えながらしなる、カーボンファイバーの棒。
微妙に角度を変えて、木製ゆえに汗を吸い取る握り棒、丈夫な皮を使った腕あて。
アルミに至るまで手づくりで優しく、従来の松葉杖と違い、ドレーッシーな装いにも合う。
全てが足の不自由な方の歩行に無理なく添える優しさがある。
かついつまでも使える頑丈さを兼ねている。
かつて日本も、身土尺という、ヒューマンスケールによって道具を作っていた文化があった。
だが、大量生産、大量消費の国の影響で、その文化が忘れられていく。
松葉杖もそうである。
脇の下にあてるスタイルは、アメリカと日本しか使っていないという。
ヨーロッパは、もう70年前にその非を認め、改善したのである。
こうしてすべてにおいて完璧に思えるvilhelm Hertzの松葉杖だが、職人たちは、「この杖が完成だとは思っていない。」という意識を持って毎日考えているという
「よきものを長く使う」。
この思想を捨てた精神に、進歩はない。