店に入った途端、煮干しが香った。
普段ラーメンは食べない。
スィーツやカレー、パンなど専門家がいるからである。
でも「弘前行くならここは行かなきゃ」と、大崎さんに勧められやってきた。
地元の人以外、まったく読めない土地の名前である。
なんでも青森煮干しラーメンの「聖地」と言われているらしい。
ラーメンが運ばれた。
茶色のスープは濃厚豚骨かと思うほど、色が濃く濁っている。
どうやら豚骨も鶏ガラも使われているらしいが、その匂いは微塵もしない。
ひたすら煮干しの香りである。
飲めばとろりとして、乳酸効果で酸っぱく、日本人の食欲を刺激する香りが鼻に抜けていく。
東京の煮干しラーメンとはまったく違う、豪胆さがある。
隣は30代の女性だったが、一心不乱に食べ、スープを飲み干して帰っていった。
おそらく小さい頃から食べているのだろう。
これは麻薬性のあるスープである。
一口でダメと言う人もあれば、3日にいっぺんは食べたいと思う中毒になる人もいるラーメンだある。
そんなスープに中太麺がからむ。唇の滑りが滑らかで、存在感があり、野太いスープとよく合う。
黒胡椒、白胡椒、一味と置かれているが、かけるなら黒胡椒がいい。
普通の煮干しラーメンなら黒胡椒の香りが立ちすぎるが、おそらく隠れた鳥ガラや豚骨と引き合うのだろう。断然黒胡椒がいい。
濃厚スープによって、体が上気していく。
こりゃあ、冬のしばれる時期に食べたら、うまかろうな。
撫牛子(ないじょうし)「たかはし中華そば店」