一口飲んだ瞬間、時が緩んで、静かになった。
鹿児島で蒸留されて3年、山梨で25年間寝ていたウィスキーは、イチジクや苺のコンフィチュールの甘い香りで顔を包み、舌の上にふわりと広がると、喉へと落ちて行く。
朝露のように柔らかい。
羽衣のようにやさしい。
喉に落ちたウィスキーは、喉にしばし留まって、香りを鼻に抜けさせる。
ほんのりと熱くなった、味覚など感じ得ない喉と食道が、甘い味わいを楽しんでいる。
穏やかに時を刻んでいる。
なんというウィスキーだろう。
スコットランドの地で生まれた銘酒は、大地をねじ伏せた凛々しき品格があるが、日本で生まれたこの銘酒は、自然と寄り添う思いやりがある。
水の国、日本でしか生まれぬ一滴に、深く深くため息をつきながら、なめるように飲み、共に過ごす幸せを呑み込んだ。
京都「うえと」にて。