一つ6千円のかき氷である。
大きな利休栗を脇に置き、頭頂部を一口食べて、言葉を失った。
かかっているのは、バニラミルクである。
バニラの香りが口に広がり、鼻から抜け、脳を優しく包む。
なんというエレガントな香りだろう。
甘やかな香りが官能をくすぐる。
上品な香りが、心を撫でる。
冷たい氷なのに、暖かい気分を運んでくる。
この幸せが一生続けばいい。
そう思ったほど甘美な時間だった。
下半分にかけられた栗のペーストも、穏やかながらたくましい。
栗を丸かじりした時のような香りの強さがあって、気分がほぐれていく。
バニラの気品と栗の野生が抱き合って、踊る。踊る。
奥様に聞けば、フランスで最優秀賞をとったタヒチ産のバニラを、ふんだんに使っているのだという。
「希少なものをよく入手できていますね」聞くと、意外な答えが返ってきた。
「ある日、僕来月タヒチに行ってくるというんです。どうしたのかと思ったら、何のツテもないのにタヒチに行って農家を歩き回り、一番いいバニラ農家と入手の約束を交わし、返ってきたんです。それがこのバニラでした」。
こうして常に、最高のものを探して旅を続けているらしい。
それがかき氷となって、目の前に登場する。
最後にあんこを加え、栗ペーストにラム酒を垂らして、食べた。
途端に甘みは妖艶さを増し、夢となって消えていった。
虎ノ門横丁ポップアップ、仙台「梵くら」のかき氷。