「よう食べはりますね」。
京都「吉野」のおばはんが、嬉しそうに笑った。
「おいしくて、いろいろ食べたくなってしまいました」と、返したものの、お腹を満たすために食べているわけでは無い。
職業病である。
もう一度来ることは叶わないかもしれないという恐怖心から、片っ端から頼んでしまう。
そこでまず、鉄板前のベストポジションに座ると、生ビールと牛スジ煮込みを頼む。
グッと歯に食い込む牛すじのコラーゲンが甘い。
つい嬉しくなって、レバー焼きを頼めば、分厚いレバーをどっさり鉄板にぶちまけて炒めるではないか・
お願いです。昼からそんなにおじさんを喜ばせないでください。
「すいません。レモンハイ甘くしないで」。ほら、お酒頼んじゃったじゃないですか。
甘辛ダレにつけて食べる、レバーのちょい焼きで、ああ、酒がすすむ。
よしいよいよ本命である。
「ほそ天、油かすトッピングで」。
ここのお好み焼きは、変わっとる。
一見広島風なのだが、広島とはだいぶ違う。
おお、またホソ(小腸)を、たっぷり鉄板に投入したぞ!
目の前にずずずいっと差し出されたほそ天を。小さなコテでハフハフ言いながら口に運ぶ。
生地やキャベツの甘みにソースの甘辛み、そこへほその脂の甘みがクニュッと弾んでたまりません。
その時閃いたのである。
このホソが焼きそばの中に入っても美味しいに違いない。
勢いをつけるためにレモンハイをお代わりして言った。
「すいません。ほそ入り焼きそばを一つ」。
「はい。ほそ入り焼きそばね」。
そこで間があって、一言。
「よう食べはりますね」。
2018