「あっ」。
思わず声を漏らしてしまった。
おいしい。だがそれ以上に、いけないことをした感覚があって、声を漏らしたのである。
求肥は唇に触れ、歯を優しく包んで、破れていく。
微かな酸味を伴った甘みが、舌に広がり、蠱惑の香りが鼻に抜ける
人間が能動的に食べているのだが、菓子側には確かな意志があって、我々をたぶらかそうとしている。
オゼイユ、日本酒、ベルガモット、梅干し、レモン。
それぞれが共鳴しながら、人間の感覚を惑わす。
求肥はそれらをまとめ、和菓子では味わえないような切ない表情で、口の中で溶けていく。
日本の食材を愛すイタリア人パテシエ、ミケーレ・アッパテマルコが、異国人として見事に消化し、夢を作り上げた傑作である。
「ミッシェルトロワグロ」にて。