「L’evo」の肉料理。
眠り姫とは、小熊のタルタルだった。
自家製キャビア 岩海苔,卵黄,野生クレソンが乗せられ、ミネラルソースが添えられている。
冬眠中の親熊を獲ろうしたらやられそうになり、やむなく獲ったものだという。
タルタルだが、牛のそれと比べると、鉄分が弱々しい。
その弱々しさを、塩分を抑えた自家製キャビアが、優しく持ち上げる
前歯で噛み締めると、切ないエキスがしたたり落ちて、海苔の香りやクレソンの香りに溶けていく。
それは切なさを余韻に残して、皿から消えていった。
近くの山で獲られた。80キロの月ノ輪熊だという
くら下の赤身を2ヶ月熟成させ、薪で少し炙って、周りを高菜、菊芋にチコリ,つぼみな、蜂蜜のジュレ、脳みそソースを合わせ、少量脳みそのソースが添えてある。
赤身肉の繊細な美味しさが、噛むごとに膨らんでいく。
蜂蜜の純な甘みだけが溶け込んでいるはちみつのソースとあわせると、熊が嬉しそうに蜂の巣を抱えている姿が浮かんできた。
脳みそのソースは、どこまでも優しい。
合わせた酒が面白かった。
よもぎなど野草だけが残っていた熊の胃袋の内容物を赤ワインに漬け込み、それを蒸留し、数滴「三郎丸L’evoバージョン」を垂らす合わせたものだという
熊肉を齧り、奥歯で噛みながら酒を流し込む。
すると熊が沢に降りて、清らかな沢水を飲んでいた。
圧巻が狸のラグー「トガネーゼ」だった。
ミンチの上にはラクレットをかけ、グラチネしてある。
驚嘆はソースであった。
鹿の血と水だけでで作ったのだという。
鹿の血はすぐに固まってしまう。
時間とともに臭みもでる。
だがこの血は、生きたまま運んできた鹿から採った血なのだという。
血にすぐ水を混ぜ、煮てソースとなった。
飲んですぐ、いかにフランス料理は血と格闘してきたかが理解した。
臭みどころか、味が澄んでいるのである。
ソースが透明なのである
いや正解には、深紅な色合いで,皿の底など見通せない。
だが,どこまでも純潔で清く、一切の澱みがない。
優美な甘さだけが舌をゆっくりと流れていく。
獲れたての血、命の灯火というものは、かくも静寂なのだ。