Paris甘味報告1。
サントノレの「ジャン・ポール・エヴァン」に行くと、マロン・コンフィを買う。
そのまますぐに開けて歩きながら食べるのが好きだ。
齧ると、黒糖のような香りとコクがあって、日本の穏やかな栗とは違う、心の奥底を掴まれるようなしぶとさがある。
はじめてパリで口にしたのは、1998年で、その時の衝撃を、こう日記に綴った。
「大きな銅鍋に山盛りにされた栗が、つやつやと輝いている。チョコレートを買いに来たはずが、つい買ってしまった。
歩きながら袋を開けると、栗の肌が、しっとりと指に吸い付いてくる。 すかさず噛めば、歯がむっちりとした身に包まれた。 押さえた甘みの向こうから、優しくもありながらも雄雄しく、妖艶さも漂わす栗の味が押し寄せる。日本の栗菓子との違いに、慄然とした。
このマロン・コンフィにあう飲み物は、コニャックである。スペイサイドのモルトやヴィンテージ・ラムでもいい。紅茶より酒に合わせて、艶をじっくり膨らませたい、夜が似合う栗なのである。
一方、日本の栗菓子には煎茶である。茶の甘みと苦味が、ほっこりとした和栗の優しさを、包み込む。昼が似合う栗である」
記憶があるうちにと、帰国して伊勢丹「ジャン・ポール・エヴァン」で買い、その場で食べてみた。
フランスで売っている方が、夜の匂いが強い。コクが深く、余韻が長いような気がする。
だがそれは気のせいかもしれない。
異国の高揚感の中で食べるのと、日常の中で食べるのは違う。
それにフォーブルサントノレを歩きながら食べるのと、新宿地下街では全く違うものね。
でも、味覚とはそういうものだ。