どうしてこれを頼んでしまったのだろう。
普通の中華そばを頼めばいいのに、好奇心がまさって、つい「生卵入り中華そば(半)」を頼んでしまった。
飯田の街中華「上海楼」でのことである。
中華そばのスープに生卵は、合わない。
以前和歌山の生卵入りラーメンを食べたことがあったが、どうも馴染めなかった。
このラーメン屋にはもう二度とくることはないだろう。
それだけの理由で、つい頼んでしまったのである。
中華そばが運ばれた。
(半)と名乗るわりには多い。
普通盛りである。
どうやらここは、普通が世間の大盛りで、大盛りが特盛らしい。
しょうゆ味の濃いスープに、中細ストレート麺、シナチクにチャーシュー、ネギ。
スープは、こっくりとした味で、うますぎない。
そこに唇あたりが滑らかな麺がからむ。
いい。
よく煮込まれたシナチク、しっとりと煮あげられたチャーシューも、いい。
しかし真ん中に生卵がいる。
これを、いつ、つぶすのか。
とりあえず白身部分だけをかき混ぜて、むら雲状態しようとやってみたが、無理だった。
いつ、つぶすのか。
店の人に聞くわけにもいかない。
他の客の様子をのぞいてみたが、よく見えない。
麺を食べ終わったあとにつぶすという戦略もあるが、それでは頼んだ意味がない。
そこで7割くらい食べたとこでつぶしてみた。
ドキドキする。
黄色い液体が、しょうゆ色のスープに流れていく。
ハンバーグの上に乗った目玉焼きや、エッグベネディクトの黄身がつぶれた瞬間には、高揚がある。
だがこれは、スリルしかない。
混ざりきらないところで、麺とからめて食べてみた。
うむ。
黄身の味わいで、スープのクリアさが消えて、ボケてしまった。
合わないことはないが、釈然としない。
しかしこれも考え方次第である。
甘辛いしょうゆ味と生卵といえば、すき焼きである。
あそこまだ甘辛くはないが、すき焼きラーメンだと思えばいい。
かなり無理があるが。
こうやって人間というものは、成長していくのである。