<だしを焼く>

食べ歩き ,

<だしを焼く>
「茶碗蒸しや出汁巻より多く、卵10に対して7から8出汁が入ってますでしょ。だから、いかにだしを焼くか、という気持ちで焼いてますんや」。
明石で一番と言われる、明石焼き「今中」のご主人は、たこ焼を焼きながら、訥々と話す。
「焼いていると昆布の香りが立ってきますねん。その時の香りで、ああ今日はいい出汁がとれたなって、かんじるんですわ」。
「返す時は、こぼれたダシをいかに包み込むように焼いてあげることが肝心です」
「返すのは三回。それ以上返したら固くなります」。
「こう一列にならんどって、下にガス火も同じようにならんどるけど、どうしても焼きムラがある。それを均一にせにゃあかん」。
明石焼きを熱々の出汁に漬けて、そっと食べる。
出汁の滋味と玉子の甘みが、ふわりと舌に着地する。
気持ちが穏やかになって、顔が緩む。
出汁に漬けるだけでなく、塩だけ、柚子七味がけ、ソースがけなど、色々なやり方で楽しむ。
ううみ僕は、根がお下品ゆえ、ソースをちょいとかけて出汁に漬ける。
これが、いいな。
下品と上品がせめぎ合いながらも仲睦まじくしていく感じが、好きなのだな。
食べ終わり、もう一度焼くところを見せてもらう。
二本の箸を使いながら、手早く、慎重に、いたわりながら焼いてゆくご主人の目は、我が子を見るように優しかった。