鯉の未来が覗ける二つの料理に、軽井沢で会った。
「無彩庵 池田」では、タルタルである。
右側が鯉のタルタルで、上には赤い切り干し大根が乗っている。
しかしながら、賽の目に切った切り身の大きさがこれ以上でも以下でもなく、歯の間で躍動して、ほのかな甘みを溢れさせる。
シャキッと弾む切り干し大根のマリネが鯉を盛り立てるのだが、甘いどぶろくとヴィネガーを使ったというマリネ液が憎く、鯉の味わいを甘酸味で引き締める。
左側に盛られたのは、皮と浮き袋、肝、白子のムースである。
それぞれに引き立てるソースが添えられ、鯉の力を、余すことなく味わってもらおうという池田シェフの誠実が、エレガンスを生んでいた。
もう一方の店は「Naz」である。
10日間寝かせた鯉を焼き、20年バルサミコと発酵させたボルチーニの汁のソースを添えられている。
食べれば皮はバリンと香ばしく弾け、中の鯉はふわりと空気を含んでいるかのように崩れていき、ほの甘い味わいを膨らませる。
中国料理の鯉の丸揚げあんかけソースからヒントを得たという、濃密なソースが、淡く品のある鯉の味を引き立てる。
キュイソンも、何回も試行錯誤して辿りついたという。
まず皮だけ剥いで、カリカリに焼く。
身は骨切りして皮面から焼き、皮を戻して、切り身のように整形したのだという。
一度分解してそれぞれの要素に的確な調理をして戻す。
シェフはイタリア料理出身だが、フランス料理のエスプリが、そこには貫かれていた。
地元の名物である鯉を、いかに昇華させるか。
考え抜かれたこの二つの料理は、ローカルレストランへいく楽しみと意義を教えてくれる。