インスタ映えはせず、「いいね」も少ないだろう。
鮒寿司の頭だけを入れた、お椀である。
一口目は、さりげない。
淡い出汁の旨味が、静かに舌を通り過ぎていく。
しかし飲んでいくと、どうだろう。
鮒寿司から酸味や旨味、塩気や脂が、香ばしさが滲み出て、汁にいき渡っていく。
「はぁ」
その瞬間、声にもならぬため息が漏れた。
おつゆが濃密を膨らませ、滋養を染み渡らせる。
幸せが体の奥底から、せり上がってくる。
最後に残った頭を食べると、ほどよく火が入ってゼラチン質が溶け出し、「とろん」と、崩れた。
同時に、僕の脳みそは緩み、時間は永遠となって、体も骨も溶けていくのだ。
大津の宿「講」にて、「湖里庵」左嵜謙祐さんの特別夕食から