全メニュー制覇まで、あと残すは「サーモンのムニエル」と、「チキンカレー」、「牛頰肉のシチュー」の三品である。
頂上は近いぞと、意気込んで出かけ、今日は「牛頰肉のシチュー」をお願いした。
皿の上で肉が隆々と盛り上がって、喉が鳴る。
ナイフを入れれば、抵抗なくすうっと入っていく。
「ああ」。
一口食べて、声が漏れた。
デミグラスソースは、角がなく、甘み、うまみ、酸味、塩気、苦味が丸く溶け込んでいる。
丁寧に丹念に作られたものだけが持つ、品格がある。
そして頰肉は、コラーゲンの甘みを舌に滲ませながら崩れていく。
煮込まれても、本来の滋味を肉体の中に閉じ込めた、上出来のシチューである。
最後はソースにご飯を入れ、ハヤシライスにして、余すことなく楽しんだ。
よしあと二品、前菜がわりにサーモンムニエルを頼み、チキンカレーを楽しむのも悪くないなと、一人作戦を練っていると、シェフが厨房から出てきて写真を見せた。「暇な時はこんなものも作っているんですよ」と、嬉しそうに見せる。
それは懐かしい「菊水」時代と寸分変わらぬ「ミートソーススパゲッティ」と、「海老カツタルタルソースだった」。
ああ四品になってしまったではないか。
後二回は来なくちゃね。
それは嬉しい誤算だった。
軽井沢「ひといき」にて