「開店時間に行ってはいけません」。
松本「まつ嘉」を知る人から教わった。
そこで開店一時間15分前の10時15分にに出かけた。
しかし誰もいない。
立派な松の木を備えた木造家からは、煙が漏れていて、地焼きをしているのだろうか、うなぎの香りがする。
不安になって電話をすると、「前の椅子に座ってお待ちくださいね」と、おばさんがのんきに言う。
やがて人が集まって来て並びはじめた。
10時半、おばさんが出てきて注文を取る。
常連客らしい夫婦連れに、おばさんが言う。
「今日は仕入れが少なかったから、早くきてくれてよかったわ」
10時45分、引き戸がガラガラと空いて、「中へどうぞ」と、案内された。
正式開店時間の45分前であるが、瞬く間に二階席まで埋まった。
隣の遅れてきた客が肝焼きを頼むと、「はい肝焼きね、あるかどうか聞いてきます」とおばさんが言う。
先に頼んだ僕の肝焼きはは大丈夫か。
「おしんこお待たせしましたあ」。
お新香が800円とは高いなあと思っていたが、これは大盛りである。
やがて肝焼きが無事運ばれた。
隣の客にも運ばれた。
小どんぶり入りで、なんとどっさり入っている。
数えてみれば8匹分あった。
カリカリに焼かれた肝焼きに、山椒を振り、燗酒をいく。
胃袋と腸を分けて、それぞれの味を楽しむのもよい。
そして待つこと50分、「うな丼」が運ばれた。
裂き、地焼き、蒸し、蒲焼きという仕事が行われる関係上、うなぎは待つこともごちそうである。
蓋を開けると、1匹の鰻が重なっている。
珍しいタイプである
皮までとろりと蒸し焼き上げた鰻で、逆に腹側はカリッと焼かれている。
その対比がいい。
甘辛タレも、甘すぎずキレがいい。
肝吸いも淡く、おしんこに奈良漬が添えられている点も正当である。
ご飯がやや柔らかいのが少し残念だが、十二分においしい。
うな丼うな重の食べ方は78通りある。
その話は後日するとしてこの鰻は、ご飯に山椒を少しかけて、ちぎった鰻を乗せて、握り寿司のようにご飯とともに、ご飯を舌側にして一緒にたべるのがいいという結論に達した。
11時30分。満腹、幸せになって店を出る。
正式開店の時間である。
しかし店の前には、「ごめんなさい、売り切れました」と書かれた看板が置かれていた。
朝1030から1時間だけ店を開く鰻屋なのである。
全国鰻重会議
松本「まつ嘉」うなぎ丼3990円
うなぎ 2 焼き2 ご飯2 タレ 2 吸い物3 お新香3 特記肝焼き2 15点 (各3点 3素晴らしい。2特記2点 満点20点)