薪を投げ入れた人々の思いが、紅蓮の炎となって、窯の中で舞っている。
有田で、「攻め」に参加した。
年一回、古式登り窯で行われる深川製磁の「攻め」は、赤松の薪を投げ入れながら一昼夜かけて温度を1350度に上げて焼いていく。
「古来焼き物は中国で「玉」を作るために生まれたものです。だから1200度でも焼き物はできるが、それは焼き物ではない」。
そう深川社長は言われた。
古来より中国では、「玉」には魂が宿っているとされ、金より貴重な存在であった。
翡翠や白石の玉を再現するため、歴代皇帝が命じて焼き物の技術が発展していく。
魂が宿っている玉であるから純粋なものでなくてはいけない。
濁りなく、透明感のある、輝く白や翡翠色を生み出すには、1350度が必要だったのである。
「一度砕いた石を、整形し、高温で再び石に戻してやる。完璧な石にする温度なのです」。
もちろん1200度でも焼き物はできる。逆にその方が効率が良く、多くの焼き物が安定的に出来上がる。
「僕は大学で経営学を学びましたが、経営だけを考えれば、低い温度で焼いた方がいい。でも焼き物は無駄をしないといい焼き物はできない。いつも悩んでいます」。と社長は、嬉しそうに言われた。
低い温度でも白色は出る。しかしその輝きはまったく違う。硬度も違う。
「焼き物は効率を求めてはいけないのです。だから年に一度、我々若いスタッフにも、この古来のやり方で焼いてもらう」。
火が生きている。
1分ほど投げ入れただけで、次第に熱が上がっていくのがわかる。
集中が途切れると、穴に薪が入らない。
窯の奥と中程、手前に投げ分けなければいけない。
一投一投によって、人間の思いが炎に伝わっていく。
「文化が弱まり、なくなると争いは起きる。ものづくりがなくなると、人々は金融へ移る。焼き物という、この微かな伝統が途絶えると、日本という国はなくなる」。
効率と拡大を求めて走る日本が失いつつある文化が、ここには生きている。
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