脂ののっていない

食べ歩き ,

脂ののっていないイワシを選び、鍋に敷き詰めたら、千鳥酢を20本ほど注いで、静かに煮る。
煮えてしばらくたち、落としぶたをしてイワシを押さえて、千鳥酢を全部捨てる。
しかる後、醤油を加えて煮る。
浜作名物「鰯の印籠煮」である。
「御飯に乗せて、お茶をかけたらおいしいですよ」という言葉にのって、千切り、炊きたての御飯に乗せて、お茶を注ぐ。
ああ。イワシは、酢の丸いうま味を体になじませながら、そのうま味を凝縮させている。
色合いほど醤油味ではなく、醤油のうま味はとがらずに、鰯煮すっとなじんでいる。
お茶に溶けはじめたうま味が、御飯の甘みと出会い、心を捉える。
質朴な贅沢が、舌を落とす。
もうあきません。
ざぶざぶ。ざぶざぶ。目を見開きながら、少しコーフン気味に、無口で、ただただ掻き込む。