瞬間の中にある、永遠なる空間。

食べ歩き ,

一口で、鼻息が荒くなった。
一口で、鼓動が高まった。
「オテル・ド・ヨシノ」手嶋純也シェフのスペシャリテ 「ジビエのトゥルト」である。
トゥルトの中は、キジや鹿、鳩や豚肉、各種レバーや鶏胸肉などによるファルスと、森バト、フォアグラ、鹿肉が詰められている
下に敷かれた森バトは、猛々しい血の味をにじませ、フォアグラの上に置かれた鹿肉は、さらさらと流れる澄んだ血の味で舌を包む。
心躍らせる持ち味の対比は、やがて渾然となり、香ばしいパイと舞いながら、口の中で高みへと登っていく。
我々を森の中へと引きずり込み、自然の怖さと妖しさを、心の肌になすりつける。
それはやがて色香を灯し、我々の官能を陥落させる。
ソースは、動物の命を余すことなく湛えて、旨味の濃度が極めて高く、それでいながら清々しいまでの透明がある。
このソースを、たっぷりとソーススプーンに満たし、肉とパイを乗せてやる。
そうして食べるのがいい。
いや、そうして食べなくてはいけない。
ソースに溺れた肉は、ぐんぐん色気を膨らませ、もうやめてと言いたくなるほどの、妖艶を醸し出すのである。
ああ。たまらない。
途中トゥルトがソースを吸って無くなっていくが、なあにソースのお代わりをすればいい。
そうしてまた溺れさせながら食べる。
そこへ赤ワインを流し込む。
瞬間の中に、永遠なる空間が生まれ、生き、生かされる感謝が浮かび上がる。
オテル・ド・ヨシノのすべての料理は、別コラムを参照してください