白子がいけません。
元々フグの白子は危険なものなのに、ここの白子は、とてもいけません。
「今日はこの白子です」と、まず生の白子が運ばれる。
その途端に僕は、頬ずりしたくなっちゃう。
そして切られ、茹でられるのです。
熱々の白子に歯を立てれば、ぷつりとかすかな抵抗があって、白子が崩れていく。
いや溶けていくといったほうがいいかもしれません。
てれんと舌に甘えながら、ゆっくりと流れていく。
その濃密な、甘いエキスを、精の神秘が、優しく舌と抱擁する。
この白子は実にきれいなのです。
雑味が一切なく、穢れなくはかない命の灯火を感じさせて切なくさせる。
それでいてどこか、脳幹を揺さぶるような、濃い滋味がある。
さらに、鍋に浮かぶ白い泡は、アクではありません。
白子から溶け出した、白子の液体なのです。
これをすくって、ポン酢に入れる。
刺身をすくい取って、この泡とからめてみる。
ははは。こんないけないことをしても良いのでしょうか。
そしてこの白子が溶けた鍋に、フグを入れてチリにします。
そのチリは、様々な部位が美味しいですが、やはり唇周りが、いいですね
そして最後は雑炊となるわけですが、この下関「さかい」の雑炊は、米に火を通したら、一旦冷まし、そこに卵液を入れて混ぜながら弱火で加熱していく。
だからとろりとなってコメと均一にまぐわっているのです。
天然フグならではの上品なうまみに、白子の味が少し加わり、とろとろ卵の甘みとコメの甘みの境目がなく、渾然一体となっている。
この幸せだけは譲れません。
ああ「ふくに笑い、ふくに泣いた」下関でありました。
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