ツキノワグマの脂刺し

食べ歩き ,

白き物体は、ブナの実だけ食べてきたというツキノワグマの脂刺しである。
しっかりとした脂は、噛む喜びがありながら、淡雪のように舌の上で溶けて、別れを告げる。
ただ緩く溶けるのではなく、個体としての威厳は残しつつ消えていく。
甘く切ない香りを残して、「さよなら」と囁く。
それは、まさしく熊とのディープキスであり、自我をゆっくりと崩壊させていく。