漆器屋にとって

食べ歩き ,

漆器屋にとっていちばんのライバルは、「カヌー」だという。
欅、栃、水目桜。漆器に向く原木は年々減少方向にあり、特に欅などは木造船との奪い合いだという。
それら木材は、「荒挽屋(木取り師)」と呼ぶ職人が、ここの原木の特徴を見極めながら「木地師」の依頼に合わせて切断する。
その後真空乾燥機で2週間ほどかけて、木材中の水分を4〜8%二する。
この荒挽を受け取った木地師は、2週間ほど寝かせて、空気中の水分を吸わせて、木材中の水分を10〜12%まで戻す。
その後、木地師はロクロと刃物工具を使い成形する。
高速で回る轆轤に刃物を当て、0,2ミリ感覚で感覚で暑さを削り、曲線を生み出し、平行な緻密な溝(干筋)を削り出す。
大小揃えられた幾多の刃物工具も、それぞれの木地師が使いやすいように自家製である。
つまり木地師は、ロクロで成形する技だけでなく、鍛治職人の技も合わせ持たなくてはならない。
成形された木地は、木地師から下地師へと手渡される。
下地師は、より堅牢な漆器となるよう下地を作る。
生漆と珪藻土を焼いて粉末にした地の粉を塗り重ねていく。
まず補強のため、麻や和紙などを底や椀の縁、高台に貼り、漆を刷り込む。
次にサン種類の粗さが異なる地の粉をヘラで均一につけ、硬化後に表面を研ぐ。
ムラなきよう様々な曲線や平面を塗ることは至難の技で、10年かかってもまだ一人前には到達しない。
さらに木製のヘラも自家製で、ヘラ先の大小や形状、薄さ厚さによる異なるしなり具合を、小刀で削り出す。
研磨石もやはり自家製で、これまた大小や曲線などを削り、器に合わせて削り出す。
最後はサンドペーパーで削った後、仕上げは特殊の炭を使い、より滑らかにしていく。いくら細かいサンドペーパーでも、この炭にはかなわない。
こうして完成した下地は、早くて半年、茶道具などの場合は1年から2年ね開かせて、記事の収縮や変形が完璧に治るまで寝かす。
寝かされた下地を元に、「塗師」「蒔絵師」時として「磨師」の経て、漆器は完成する。
今回加賀で、木地師と下地師の仕事を見せていただいた。
加賀ではピカイチと言われる76歳の木地師は、幾つもの刃物を使い、瞬く間に寸分たがわぬ木地を成形していく。
下地師は均一塗りの困難を、嬉しそうに話す。
こうして縄文時代から派生したと言われる漆器の技は、何人もの職人の誠実を経て、我々の元に届く。
その光沢の美しと手にヒタっと馴染む肌触り、お椀をいただく時に唇に当たるこの上なき優しさは、膨大な時間を経た叡智の結晶なの